先日、知り合いの経営者の方から、社員さんが仕事中に負傷してしまったという話を聞きましたので、労災の手続きについて少しアドバイスさせていただきました。
やはり、仕事をしていく上で、病気やケガは避けて通れないものですね。
そこで、これから少しの間、労災保険について情報を整理していこうと思います。
労災保険とは何か
労災保険の根拠となる法律は「労働者災害補償保険法」(以下「労災保険法」という。)です。
労災保険法の目的は、①保険給付、②社会復帰促進等事業の2つの事業を行うことです。
①の保険給付の対象は、次のとおりです。
ア 業務災害に対する保険給付(複数業務に関するものを含む)
イ 通勤災害に対する保険給付
ウ 二次健康診断等給付
②の社会復帰促進等事業とは、被災してしまった労働者に対する社会復帰の促進や生活の援護等を行うものです。
労災保険法が適用される事業
原則
労災保険法第3条第1項は「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。」としていることから、労働者が1人でもいれば、当然にこの法律の適用を受けることになります。ここでの「労働者」は、労働基準法第9条が定める「職業の種類を問わず、事業又は事務所(略)に使用される者で、賃金を支払われる者」です。したがって、正社員に限らず、パートやアルバイト等も含まれます。
暫定任意適用事業
暫定任意適用事業は、農林水産業のうち、保険に加入するかどうかを事業主やその事業に使用されている労働者の意思にまかされている事業です。この場合の保険関係は、事業主が任意加入の申請をし、その承諾を得て成立します。次のいずれかに該当するものは、暫定的に任意適用となっています。
ア 常時5人未満の労働者を使用する個人経営の農業(畜産・養蚕を含む)であって、特定の危険又は有害な事業を行う事業で常時労働者を使用する事業又は事業主が特別加入している事業以外のもの
イ 労働者を常には使用せず、かつ年間使用延べ労働者数が300人未満の個人経営の林業
ウ 常時5人未満の労働者使用する個人経営の水産業(船員を雇用して行う船舶所有者の事業を除く。)で、総トン数5トン未満の漁船による事業又は河川、湖沼又は特定の水面において主に操業するもの。
なお、ここで、2つ補足をしておきます。
1つ目は「総トン数」です。これは、1隻の船舶の大きさを示す単位であって、いくつかのものを合わせるという意味での「総」ではありません。「総トン数」は、港湾や船舶に関する専門用語ですので、お間違いのないようにしてください。2つ目は、ここでの「特定の水面」とは、陸奥湾、富山湾、若狭湾、東京湾、伊勢湾、大阪湾、有明海及び八代海、大村湾そして鹿児島湾の9か所を指します。
特別加入
次の3つのいずれかに該当する場合は、労働者に準じて保護が必要であるとの観点から、労災保険法に特別に加入が認められています。
ア 中小事業主
次の人数以下の労働者を使用する事業の事業主であって、労働保険事務組合に労働保険事務を委託している方(事業主が法人等である場合は、その代表者)。
・金融業、保険業、不動産業、小売業は常時50人以下
・卸売業、サービス業は、常時100人以下
・その他の事業は、常時300人以下
イ 一人親方等
次のいずれかに該当する方
・個人タクシー業、バイク便事業、料理宅配事業等を、労働者を使用しないで行うことを常態としている方及びその家族従事者等
・特定農作業従事者、情報処理作業従事者等
ウ 海外派遣者
開発途上地域に対する技術協力のために棄権されている者又は国内で行われている事業から派遣されて海外で行われる事業に従事する労働者(有期事業を除く)
適用除外の事業
ア 国家公務員及び国の直轄事業では、国家公務員災害補償法が適用されるので、労災保険法は適用されません。なお、独立行政法人の職員で国家公務員の身分を持たないときは、労災保険法の適用対象です。
イ 地方公務員には、原則として地方公務員災害補償法が適用されるので、労災保険法は適用対象外です。ただし、現業かつ非常勤の地方公務員のみ労災保険法の適用対象となります。
その他の留意点
ア 法人の取締役や理事については、労災保険法は適用されませんが、業務執行権を有しない方が、他の取締役等から指示を受けて労働に従事し賃金を得ている場合には、実質的に労働者性があるものとして、労災保険法が適用されます。
イ インターンシップによる学生については、そこに使用者との使用従属関係がある場合は、労災保険法の適用対象です。
ウ テレワークで仕事をしている労働者も労災保険法の適用対象です。
労働基準法との関係
労働基準法第8章(第75条から第88条まで)は、災害補償について規定しています。
この章の条文は、療養補償、休業補償、傷害補償等について書かれたもので、使用者の過失の有無を問わないでその賠償責任を使用者に負わせているものです。
しかし、使用者によっては、労働基準法に基づく補償を行えない場合もあります。
こうしたことに備えるために労災保険制度があります。つまり、使用者が行うべき補償について、労災保険法で給付が行われた場合には、使用者は労働基準法に定める責任を免れるものです。
労災保険法に基づく保険料の負担は使用者のみであって、労働者は健康保険のような保険料の折半義務を負わないのは、こうした理由によるものです。
この回は、以上です。